● 第一話 『夏、変なヤツがやってきた、同時に二人も』 (7) |
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 中 | |
潮音海岸に打ち寄せる波。ダイヤモンドヘッドの階段を2階から広海と海都が荷物を持って降りてくる。勝が作業部屋から出てくる。 | |
海都がポケットから札を何枚か出して勝に渡す。 | |
海都 | 「あの・・・あのこれ、残りの宿泊料です。」 |
勝 | 「いや、いいんだよ。」 |
海都 | 「いや、あのそういうワケには。」 |
勝 | 「ああ、そうか。」 |
お金を受け取る勝。 | |
広海 | 「社長あの、俺のー何て言うかあのバイト代っていうか、お金・・・。」、 |
勝 | 「んー、ほら、んー、給料だ。」 |
海都からもらった宿泊代を、そっくりそのまま広海にわたす勝。 | |
海都に見せびらかす広海。不満げな海都。 | |
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 玄関 | |
玄関から広海と海都が出てくる。 | |
海都 | 「なーんか納得いかないなー。なんで俺が払ったのがあんたの所に行くんだよ。」 |
広海 | 「いや俺バイトだし、あんた客でしょ?バイトは金もらう、客は金払う。」 |
海都 | 「いやいやいや、そりゃそうなんだけどさ。」 |
広海 | 「ほら、駅まで送るから、ね。」 |
広海のルノーに乗り込む二人、ダイヤモンドヘッドを後にする。 | |
□ 潮音海岸を去る二人 | |
勝はダイヤモンドヘッドの今の椅子に座って、ぼんやりと海を見ている。 | |
坂道をあがっていくルノー。春子が渚の店内からちょうどビールのケースを持って出てくる。春子に手を振る広海と海都、それにこたえる春子。少し寂しそうな表情を浮かべる。 | |
真琴の高校の教室。相変わらず居眠りしている真琴。目を覚まし、ふと窓に目をやると、ルノーのサンルーフから上半身を出して、広海がこちらに手を振っている。広海は海都も引っぱり出し、二人で手を降り始める。思わず立ち上がる真琴。 | |
広海 | 「降ってる?」 |
海都の方を振り向く広海。 | |
広海 | 「降るのこうやって!」 |
海都 | 「解ったから。」 |
広海 | 「達者で暮らせよ〜、なー、わかったー。(海都の方を向いて)降ってる?ねぇ?」 |
海都 | 「じゃーねー!」 |
窓越しに広海と海都を見に集まってきたクラスメート。 | |
先生 | 「どうしました和泉さん?」 |
裕子 | 「なにやってるの、あの人達?」 |
真琴 | 「さあ・・・ね。」 |
祐介 | 「ひとり・・・増えた・・・。」 |
必死に何か叫びながら手を振っている広海と海都。手を振り返す真琴。二人は車に乗って立ち去る。わけがわからず微笑む真琴。 | |
□ 九重駅前 | |
ルノーは九重駅前に到着。蓑田がタクシーの中でパンを食べながら、二人に気がつく。窓を開けて、助手席のドアを外側から開けようとする海都。が、うまくいかない。 | |
運転性から広海が降りてきて、助手席のドアを開ける。 | |
広海 | 「外からじゃないと開かないんだよねこれ、古いから。」 |
海都 | 「(降りながら)サンキュー。」 |
広海 | 「いえいえ。」 |
海都 | 「ま、がんばってさ、なるべく人に迷惑掛けないで生きていった方がいいと思うよ。」 |
広海 | 「そっちこそ、もうちょっとホラ、笑顔の似合う男になんないと。これからの時代は、え・が・お。わーかるー?」 |
海都 | 「そればっか言ってんだな。」 |
広海 | 「俺のこと?」 |
海都 | 「そう。」 |
広海 | 「じゃー、日本経済よろしく頼みます。」 |
海都 | 「あそうだ、一つ聞いていいかな?」 |
広海 | 「いーっすよ幾つでも。」 |
海都 | 「いや、一つでいいんだ。何で時計してないの?」 |
広海 | 「あーあーあーホラ、ここ来るとき、捨てたんだよね。うんうんうん。」 |
海都 | 「へぇー。」 |
広海 | 「何でそんなこと。」 |
海都 | 「いや・・・じゃ。」 |
そう言うと、駅のホームへ向かう海都。 | |
広海 | 「(海都の背中に手を振って)ちゃお〜。」 |
車に乗り込み九重駅を後にする広海。蓑田が二人の別れを見ている。 | |
□ 民宿ダイヤモンドヘッド | |
自転車に乗って帰途につく真琴。 | |
真琴 | 「ただいま〜。」 |
ダイヤモンドヘッドの中を見渡す真琴。勝が一人で和室でランプをみがいている。 | |
真琴 | 「ねぇあの二人は?」 |
勝 | 「出てった。」 |
真琴 | 「えっ?」 |
勝 | 「閉めるんだ、ここ。」 |
真琴 | 「・・・おじいちゃん?」 |
□ ダイヤモンドヘッド前の海岸 | |
ボートに真琴が座っている。真琴に慶子からの手紙を渡そうとする勝。 | |
勝 | 「ふん。」 |
真琴 | 「読みたくない。」 |
勝 | 「真琴・・・。」 |
手紙から目を背ける真琴。真琴のとなりに座る勝。 | |
勝 | 「じゃー、俺が教えてやる。要するに、お前の母さんはな、お前と東京で暮らしたいって言ってきた。お前と二人でな。俺は、そうすることにした。お前、東京帰れ、慶子と暮らせ。」 |
真琴 | 「勝手なこと言わないでよ。」 |
勝 | 「それが一番いいんだ。」 |
真琴 | 「なんで?・・・あたしはここにいたいの!」 |
勝 | 「もともとな、慶子がお前を、ここに置いていったときに、約束したことなんだ。落ち着いたら、戻すってな。俺も、そうすると、気が楽になるんだよ。真琴、もう働くのも、疲れちゃったしな。この民宿売って、どっか南の島でも行ってさ、のんびり暮らしてえなって、ずっと思ってたんだ。お前がいちゃあ、それもできないだろ?」 |
真琴 | 「・・・おじいちゃん・・・。」 |
勝 | 「そう、俺はおじいちゃんだよ。お前の親じゃない。一緒に暮らすのはな、親がいいに決まってんだ・・・。学校、夏休みなったら東京戻れ。」 |
真琴 | 「いやだ。」 |
勝 | 「真琴。」 |
真琴 | 「いやだ。」 |
勝 | 「もう、決めたんだ。」 |
それだけ言うと、席を立って民宿に戻る勝。一人残る真琴。 | |
□ ガソリンスタンド | |
あたりは暗くなりかけている。広海のルノーが給油している。 | |
店員 | <「そうっすね、夏ですからね。」/TD> |
広海 | 「そうだよね、夏だもんね。」 |
店員 | 「やっぱ、高原ですかね。」 |
それを聞いた広海、店員に襲いかかる。 | |
広海 | 「なんで?なんでなんでなんで、海でしょ?海って言いなさい海って。海って言いなさい!」 |
店員 | 「ううう、海の近くで働いてるんですから。」 |
必死で前方を指さす店員。そこには海が広がっている。 | |
広海 | 「・・・・あ、わりわり。ごめんごめん・・・」 |
海を眺める広海。 | |
□ 海都のマンション | |
海都が一人、ベランダで夜景を眺めている。 | |
広海の声(回想) | 「ガキの頃って、夏休み楽しかったよねぇ。なんであんなに楽しかったんだろ。」 |
□ 潮音海岸 | |
日中の潮音海岸。民宿ダイヤモンドヘッドの看板には『FOR SALE』と書かれた板が張られている。真琴と春子がそこでベンチに座って海を眺めている。 | |
春子 | 「なーんか夏が終わったみたいな気分だね。・・・・・真琴、くよくよすんな。」 |
真琴の頭をなでる春子。 | |
真琴 | 「・・・うん。(力無くうなずく)」 |
□ 高原 | |
広海のルノーが停まっている。富士子がグラビアの撮影をしている。男の元に走り寄ってくる富士子。 | |
男 | 「あと何本くらい?」 |
富士子 | 「まだいっぱいよ。よいっしょ。」 |
撮影用の服を抱える富士子。広海のルノーを見つける。中では広海が昼寝している。 | |
富士子 | 「第一のコース、桜井広見君!」 |
富士子がルノーの中を覗いている。びっくりして飛び起きる広海。 | |
富士子 | 「よぉ。」 |
□ 高層ビル内の喫茶店 | |
海都と桜が向かい合って話をしている。 | |
桜 | 「あのプロジェクトね、村井さんが任されてやってる。」 |
海都 | 「村井かあ。」 |
桜 | 「同期だった?」 |
海都 | 「いや、一つ下。」 |
桜 | 「あ、そっか・・・ごめん。」 |
海都 | 「(苦笑して)桜が謝ることないよ。」 |
桜 | 「・・・休みは?」 |
海都 | 「え?」 |
桜 | 「終わり?」 |
□ 高原 | |
広海と富士子がルノーに寄りかかって話している。 | |
富士子 | 「よくわかんないけど、広海らしくないじゃん。」 |
広海 | 「なんだよそれ?」 |
富士子 | 「でてけって言われても、居座り続けるのが広海でしょ?」 |
広海 | 「なにそれ、すっげーひでえ言い方。」 |
富士子 | 「なんなら戻ってくる?新しい男がさ、期待はずれだったんだよね、あいつなんだけど。」 |
広海 | 「えーどれどれどれ?」 |
富士子 | 「あいつあいつあいつあいつ!」 |
さっきの男を指さす富士子。眼鏡を掛け髭を生やした長髪の業界風の男である。その男を見て声を出して笑う広海。 | |
富士子 | 「もーう、失敗だったわ。」 |
と、広海が富士子の方を向いて何か気がつく。 | |
広海 | 「あ。」 |
富士子 | 「え?」 |
いきなり富士子の抱えていた衣装に顔を埋める広海。あせる富士子。 | |
富士子 | 「ちょっと何すんのよ、こんなところで!」 |
富士子の服の香りをかぐ広海。 | |
広海 | 「これ、海のにおいがする。」 |
富士子 | 「え?あぁ、海の撮影の時着てたから。」 |
もとの姿勢に戻る広海。何かを思い出したように笑う。 | |
広海 | 「富士子。」 |
富士子 | 「ん?」 |
広海 | 「やっぱ俺には高原似合わねえな。」 |
□ 高層ビル内の喫茶店 | |
さっきからぼーっとして宙を見つめている海都。 | |
桜 | 「どうしたの?」 |
海都 | 「・・・え?いや・・・、終わりなのかなー休みは。」 |
その時、海都が桜の肩越しに何かを見つけて立ち上がる。 | |
海都 | 「あ!」 |
桜 | 「なあに?(一度振り向いてから)どうしたの?」 |
たちつくす海都。海都の視線の先のビルとビルの間に、わずかに太平洋が見える。 | |
海都 | 「・・・太平洋・・・」 |
桜 | 「え?」 |
その時、海都の時計のアラームが鳴る。おもむろにその時計をはずす海都。もう一度海を見つめてから再び座る。 | |
海都 | 「桜さ。」 |
桜 | 「ん?」 |
海都 | 「これ預かっといて。」 |
桜 | 「(驚いて)なんで?」 |
海都 | 「(少しだけ笑いながら)いや、いいから・・・」 |
□ ダイヤモンドヘッドへ向かう電車 | |
海都が一人電車に乗り、外を眺めている。海が見えてきたところで、海岸線に停まっているルノーと、海を眺めている男の後ろ姿を見つける。広海である。思わず笑顔がこぼれる海都。海を見つめている広海。 | |
□ 民宿ダイヤモンドヘッド前 | |
『FOR SALE』と書かれた板が張られたダイヤモンドヘッドの看板の前に、はづきが立っている。近づいていく真琴。軽く会釈するはづき。 | |
はづき | 「あの〜。」 |
真琴 | 「はい。」 |
はづき | 「民宿やめるんですか?」 |
真琴 | 「・・・はい。」 |
はづき | 「・・・あの人達は?」 |
真琴 | 「え?」 |
はづき | 「(少しとまどいながら)いえ。」 |
再び会釈をして真琴の前を立ち去るはづき。頭を下げる真琴。 | |
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 真琴の部屋 | |
壁に貼っていた瓶に入っていた手紙をはぎ取る真琴。それを見ながら一言つぶやく。 | |
真琴 | 「・・・いいことなんかなんにもないじゃん。」 |
□ 民宿ダイヤモンドヘッド前 | |
ダイヤモンドヘッドの看板に貼られた『FOR SALE』という板を、はがして踏みつける蓑田。すぐに逃げるようにしてタクシーへ戻る。それをダイヤモンドヘッドのテラスから眺めていた春子と勝。 | |
春子 | 「小さいわ〜、やることが〜。」 |
一緒に首を横に振っている勝。 | |
□ 民宿ダイヤモンドヘッド前 海岸 | |
真琴が一人、海へ向かって歩いている。拾った小瓶に再び手紙を入れ、コルクの栓を閉める。海に放り投げようと振りかぶったその瞬間、聞き慣れた声が背後から聞こえてくる。はっとして振り向く真琴。 | |
そこには、坂道をルノーを押しながら騒がしく下ってくる広海と海都がいた。 | |
広海 | 「いーじゃん夏なんだから!(笑っている広海)」 |
海都 | 「何笑ってんだよ!」 |
広海と海都、止まらなくなったルノーのボンネットに飛び乗る。春子と勝も二人に気づく。ルノーはダイヤモンドヘッドの看板をなぎ倒し、『FOR SALE』と書かれた板を踏みつけて、海へとつっこんでいく。 | |
真琴 | 「あーあ!」 |
広海 | 「海だ海だ。うみー!(」 |
海に向かって手を振る広海。落ちそうになってあわてる海都。二人とも海の中につっこむ。 | |
真琴 | 「ああ!」 |
春子 | 「(二人の姿を見ながら勝に)どうする?」 |
勝 | 「(あきらめの表情を浮かべて)ビール!」 |
春子 | 「はいはい。」 |
浅瀬で水を掛け合い、言い争いをしている広海と海都。それを楽しそうに見つめる真琴。真琴に気がついた広海、手を振る。 | |
広海 | 「よーぉ!」 |
真琴 | 「ばーかみたい!」 |
海都を指さす広海。 | |
広海 | 「お前のことだろ。」 |
海都 | 「あんたのことだよ。」 |
その時、波打ち際で止まっていたルノーが再び動き出す。 | |
広海 | 「あ!マイカー!マイカー!マイカー!」 |
真琴 | 「あー!」 |
遠くから微笑みながら彼等を見つめているはづき。ルノーを必死で押している広海と海都。その様子を笑顔で見つめている真琴。 | |
真琴(M) | 「夏のある国に生まれて、私は幸せだと思う。だって、夏には夏だけの、時間の進み方があるような気がするから。」 |
□ ――TO BE CONTINUED―― |