みんなおまえみたいにやりたいんだ |
「誰でもな、みんなおまえみたいにやりたいと思うんだよ。思うんだ・・でもな、できないんだよ現実には。 将来のことや家族のこと、いろんなことがあってな、できないんだよ。年取ったら今度こそって思うけど、 そん時にはたいしたことできなくなっちまうんだろうな。俺は人生なんてそんなもんだと思う。思うことにした。 ・・・・・ やれよ。好きにやれよ。そして失敗しろ。うんと後悔しろ。あんなマネするんじゃなかったって、会社辞めるなんてバカだったって、 ボロボロの人生送って、うんと後悔しろ。俺の人生が間違ってなかったって、おまえが間違ってたんだってこと、見せてくれよ。 ・・その時また、見にくるよ。」 防波堤で釣りをしながら、大崎部長が海都に言った言葉。 先々の不安、家族や周囲への配慮、勇気が足りない、才能が足りない、運が足りない・・あれやこれや。 部長の言葉は、そうした多くの人たちの言葉を代弁しているようだ。もちろん、海都がこの先どうなるのかも全くわからない。 誰もみな、自分自身を肯定したい。人の最も強い願いは、それかもしれない。部長もまた、海都のようにはやらなかった自分の人生を肯定したい。 こちらもまた、堅実な大人の生き方なのだから。 その思いの中で、今自分の海に向かって、無謀にも見える船出をしようとする若い海都の姿は、何とも眩しく映ったことだろう。 厳しく聞こえる言葉は、どこか、「がんばってみろ」と、ポンと背中を叩くような、温かさを秘めた厳父の心情にも思える。 ここでもうひとつの言葉を思い出す。海都が社長に言った、「今まで好き勝手やってきたんでしょ、最後まで全うしてくださいよ。 たとえそれがどんな結果になっても、見本を見せてください!」 社長を貫いたこの言葉は、いつか海都自身を貫くかも知れない。 未知の航路への不安、自ら決意を固めた自信、どこか遠い目的地に照準を合わせた心の高まり、けれど何ひとつ確かなものは約束されていない寄るべなさ、 そしてもう後戻りはできない・・・この日の海都の心いっぱいに満ちていただろうあらゆる思いが、部長の言葉によって、 臨界を超えて溢れてしまったようだ。 海都の上に注ぐこの日の夏の光は、ことさらにまぶしい。 * * * * * |