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秘密基地

「これからだよ。これからが楽しいんだ。」
そう言って勝は、二人を秘密基地でのキャンプに連れていった。

勝が眠った後、海都と広海はテントの外で語りあっていた。
「あんたさ、あんな風になりたいんじゃないの?」
「あんなふうに年取っていけたら、最高だと思うんだよね。」
「社長がカッコいいのはさ、好きなこと自分で見つけて、それにこだわって生きてるからなんだろうな。」
「俺さ、もうちょっと社長の背中見ていたい気がするな。」

夜半、目を覚ました勝の耳に、二人の会話が入ってきた。
二人が勝に寄せる尊敬と憧れは、多少くすぐったくはあっても、内心嬉しかっただろう。
その一方で、彼らが(特に広海が)勝に心酔しすぎていることの危険もまた、感じていただろう。
自分は彼らの尊敬に値するほどの、いったい何ほどの者だろうか、自分の人生はこれでよかったのか、 そして、海都と広海の将来は・・・
じっとうつむいたまま二人の話を聞いている勝の表情に、さまざまな思いが浮かんでいる。
翌朝早く、勝はひとりボートに乗って、何かを考えていた・・。

三人の『少年』が、山の中の秘密基地ですごした一日。
海都と広海がいたこの夏は、勝にとっても特別な夏だった。
青年たちの尊敬を受け、導き、やがて彼らが自分を超えて、それぞれの道へ旅立つように仕向ける ・・・若い日のある時期、こういう大人に出会えた若者と、そしてこういう若者に出会えた大人と。 互いに幸福な出会いだった。

ダイヤモンドヘッドに戻った一行を迎えたのは、慶子だった。
「・・ここは、人をダメにするような気がしたの。」
慶子の言葉は、二人が信じ切っていたものを、思いがけない方向へ揺るがすものだった。
「・・他にあったはずよ、ここを選んだ理由は。でも、ここにいると、それでもいいか、 って思っちゃうような気がするの。」

海都と広海にとってあれほどカッコよく映った勝の生き方が、慶子の目には全く別様に見えていた ことを知ったとき、二人は台所で皿洗いをしながら、ずっと黙ったままだった。

夜、黙ったまま外にいる二人のところに、勝が来た。
「・・今年の夏は、いい夏になったよ。」
「あとは、おまえらだけだな、そろそろだな。」
そしてあの名セリフがやってくる。

「ここは俺の海だ。お前らの海は別にあるはずだ。そうだろ?」

いつか来ると覚悟していたことを、受けとめなければならなくなった・・そんな表情で、二人は勝を見る。
慶子の言葉も、勝の言葉も、二人の旅立ちを促していた・・・。

* * * * *


・・・・・ついに言われちゃったな