俺の海 |
「ここは俺の海だ。お前らの海は、別にあるはずだ。」 二人にそう告げた夜、勝はガレージで、埃まみれの毛布に包まれていた古いサーフボードを取り出した。もうどれくらい長い間、これはここに置かれていたのだろう。 ボードの手入れをし、ウェアまで注文して、勝は意気揚々と海に入るが・・・ 「何て言っていいのかわかんないよね・・」 「・・悔しいんだろうな」 二人は失敗をどう慰めていいのかわからない。 勝が従業員部屋に来て言った。 「俺はさ、波乗りがしたくてこの海に住みついたんだよ・・・だけどな、いつの間にか、波に乗るのを 忘れちまってよ。ただの民宿のおやじになっちまったんだよな・・。」 「・・おまえらがここに流れ着いてこなかったら、このままずっと忘れたままだったんだろうな。」 この夏二人がここにいたことは、彼ら自身をも周りの人々をも、大きく変えていったのだ。 それは、ある時それぞれが「この海でつながっているんだよね」と言っていたような、何かゆったりとした 優しい結びつきに見える。 翌朝から二人は、勝のトレーニングにつきあい始めた。 こんなにも他の人間に共感し、体を張ってその夢の実現を共にする・・・商社マン時代の海都に こんな経験があっただろうか。今は、「客」だった時とは、まるで違う目をしている。 勝の一言一言、起こるできごとの一つ一つを、まるで両手を拡げて抱きとめるように、心いっぱいに受け入れている海都がいる。 「あした、やってみるよ、もう一度な。」 勝は宣言し、翌朝みんなが見守る中、ついに波に乗る。 水の中から太陽を仰ぐ、この映像は美しい。 みんなは最高の笑顔で勝を迎える。 夜の海の照り返しを受けながら、従業員部屋で海都と広海は並んで語りあっていた。 「・・いい顔してたよな、波に乗ったときにさ。」 「ああ、カッコよかった。」 「俺たちもあんな顔できるようになれるのかな・・・なりたいよな。」 そう言ったときの海都は、満ち足りたように輝く目をしていた。 「自分の海か・・・そろそろ見つけに行かなきゃいけないのかもな。」 「あとは・・・社長の言うとおり、俺たちだな。」 勝は、「自分の海」を見せてくれた。 * * * * * 夏は、終わったね
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