S-2 布良のバス停と牧水亭 カノプスと名付けられたバス停。別名布良星と呼ばれる星の名で、 南半球で見られる星だが、布良では水平線近くに見ることができる。 北半球のカノプス出現の限界地のようです。 牧水亭の上空にたくさんの鳥人たち。気持ち良さそうですゥ! |
菊池幽芳の「己が罪」は、明治32年9月から「大阪毎日新聞」に掲載され、 当時台頭してきた家庭小説の佳作として迎えられた。 若い時に身を誤って子供を産んだ環(たまき)という女性が、 その後子爵夫人となり、子爵との間に出来た正弘という子と、 以前に産んで今は漁師の子となっている玉太郎とを同時に海で亡くし、 一切を夫の前に懺悔するというのが概要で、可憐な環を中心に読者の涙を誘いました。 後編31の互いに兄弟と知らずに知り合った正弘と玉太郎が溺死する直前の場面を現代語で要約してみました。 (原文は漢文に近い) 玉太郎はまだ11歳だが、勇敢な少年だ。 正しいことならば自分の危険も省みず進む性格である。 だから、母の面影のある環(たまき)の為に、必ず正弘を救わなければと決心した。 玉太郎は衣を脱ぎ捨てると猛然と、近くの岩から正弘が取り残された甲岩(かぶといわ)を目指していった。 しかし、沖の突風は強まり大波が凄まじい勢いで押し寄せている。 岩間を渡ろうにも足をすくわれて非常に危険である。でも玉太郎は少しも恐れはしなかった。 ひときわ高い波が岩をも砕けと甲岩に襲いかかった。 波をかぶり引き倒されそうになった正弘は、そこが危ないと感じ、とにかく違う岩まで渡ってみようと思った。 でもまるで自分を殺しにきた兵士に囲まれヤリで突かれているようで身動きがとれない。 もうだめだ・・と思った時、荒れる波の彼方から声が聞こえた。 ふとその方向を見ると、なつかしい玉太郎がこちらに向かって岩を伝いつつ、自分を呼んでいるではないか。 「坊ちゃん、こっちに来ては危ない! じっとしてるんだ!」 正弘はその声に従って、岩の上に戻った。 玉太郎は呼吸を計りながら、一歩ずつ岩を渡っていった。 砕かれた大波が玉太郎の全身に降りかかる。 誤って足をすくわれれば玉太郎の小さな体などたちまち深みにさらわれてしまうだろう。 玉太郎はまだ弟とは知らない小さな正弘のいる甲岩に達することだけを念じて進んで行った。 「大丈夫だ!しっかりしろ!僕がきっと助けてやる!」 潮はいよいよ満ちてきて玉太郎の胸まで被ってきた。 波が逆巻く岩間を泳ぎきり、甲岩に手が届いた瞬間に大波がきて、 玉太郎の小さな体は岩に強く叩かれた。 波が引くのと同時にふたたび岩に手をかけたが、鮮血が斑々として玉太郎の手と足を染めていた。 玉太郎が水中に巻き込まれるのを見て、正弘は恐怖に震えたが、 再び甲岩に上がってきたのを見て、喜びの声を上げた。 「玉太郎さん、大丈夫!?」 「大丈夫だよ!」 と、叫んだ二少年の声は打ち震えていた。 |
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