● 第一話 『夏、変なヤツがやってきた、同時に二人も』 (2)
□ 真琴の通学路 
自転車をこいで家に帰る真琴。
真琴「あ、バイバーイ。(友達に手を振る)」
途中、収穫されたおいしそうなトマトを見つけて自転車を止める。トマトをほおばりながら踏切を渡る。スナック渚の前で伸びをしている春子の前を通り過ぎる。
真琴「ただいま。」
春子「(あくびをしながら)勝さん帰ってきたんだ。」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 前 
ダイヤモンドヘッドへ向かう坂道をタクシーの後をついて自転車をこぐ真琴。タクシーはダイヤモンドヘッドの前に停まり、中から松葉杖をついた勝が降りてくる。
真琴「おじいちゃん。」
「おう、真琴。」
真琴「お帰り。どう?」
「大したことないよこのくらい。大丈夫だ。」
蓑田から荷物を受け取る真琴。
真琴「ああ、すみません。」
蓑田「1240円。」
「ああ真琴、1000円でいいぞ。」
真琴「えぇ?」
「1000円。」
蓑田「何言ってるんですか〜、ホラ、メーター!」
「利夫、遠回りするのはな、観光客の時だけにしろ。」
蓑田「・・・はい。スミマセンでした・・・・。」
真琴「(微笑みながら千円を渡す)じゃあ。ありがとうございました。」
ダイヤモンドヘッドへかけていく真琴。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 中
厨房で麦茶をグラスに注ぐ真琴。それを持ってベランダの勝の元へ。
真琴「はい。(麦茶を渡す)」
「おう。」
真琴「もーう夏だねー。」
「うーん。」
真琴「これから忙しくなるね。」
「うん、でもな、(足のギプスをさすりながら)早くこいつがとれねえとなあ、客が来る前にな。」
真琴「一人で屋根なんか直すから。」
笑いあう二人。
□ 蓑田のタクシーの中 
海都が乗っている。
海都「あのー、まだなんですか?その静かな民宿って言うのは?」
蓑田「はい、まだ。」
海都「この道さっきも通りませんでした?」
蓑田「田舎はね、何処も同じに見えるんだよね。」
メーターは1930円を指している。と、その時前方にルノーを押している広海に気がつく。
海都「あっ。」
タクシーは追い越すが、後ろをしばらく眺めた後、考え込む海都。
海都「(蓑田に)ああ。」
タクシーを停める海都。
□ 二人でルノーを押す
広海「いやいやいやいや〜、悪いっすね〜。」
海都「いや、なんか俺にも責任あるような気がして。」
広海「ええ?」
海都「いや、別に。ああ、何処まで行くの?」
広海「(にやけながら)夢のカリフォルニアまで。」
海都「え?」
突然押すのをやめる海都。坂道で車が下がり始める。
広海「うわうわうわうわうわうわ!ちょっとちょっとちょっとちょっと!」
再び手を貸す海都。
海都「あーあーあー。」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 前
アルバイト募集の張り紙をしている真琴。海の方へ歩き出す。波打ち際に流れ着いている小瓶を見つける。
□ スナック渚 前
渚の前で午後の日射しを浴びている春子の前を、ルノーを押した二人が通り過ぎる。サングラスをはずし、怪訝そうな目で見る春子。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 前
ガラスの小瓶を拾い上げる真琴。コルク開けて中から手紙を取り出す。英語で書かれている手紙のようだがほとんどにじんでいて読めない。最後の文章だけ、にじんでいない。
真琴「God Bless You.We are the BEACH BOYS....」
□ ルノーを押す二人
広海「ホラ、もっとしっかり押して!」
広海の物言いに腹を立てる海都。
広海「ちょっとさ、もしかしてムッとしてんの?ねえねえねえ?」
ムキになって車を押す海都。
広海「あっ、ダメダメダメ!押すな!押すな!」
海都「どっちなんだよ?」
下り坂にさしかかり、勢いを増して降りていくルノー。
広海「押すな押すな押すな!」
海都「わあ〜。」
叫び声を挙げながら、車にしがみついて坂道を降りていく二人。春子が追いついてきて、坂の上から二人を見つける。手紙を読んでいた真琴が坂道を降りてくる車に気がつく。
海都「ブレーキ!ブレーキ!」
ルノーはダイヤモンドヘッドの看板を壊しながら海へつっこんでいく。意味不明の叫び声をあげる二人。ダイヤモンドヘッドの中から勝も出てくる。
広海「おお!海〜!!」
海都「あ〜あ〜。」
海に投げ出される二人。真琴が駆け寄って来る。ずぶぬれの海都を見て大笑いする広海。
海都「なに笑ってんだよ!おかしくない。」
広海「いいじゃない夏なんだから。」
海都「何が!」
広海「夏なんだから〜。」
笑い続ける広海。不機嫌な海都。その光景を見て、思わず微笑む真琴。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 前
夕方、勝が壊れた看板を直している。真琴が中から出てくる。
真琴「おじいちゃん。」
「ん?」
真琴「いいでしょ、泊めても。」
「やめとけ。俺はこんなだしな。お前一人じゃどうしようもねえだろ。」
真琴「せっかく来てくれたんだし。」
「ん?たまたまそこに落ちてきただけだろ。」
真琴「だってもうお風呂も入っちゃってる。」
「なに?」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド ドラム缶風呂 
広海がドラム缶風呂に浸かっている。
広海「いいね〜。気に入ったね。気にいっちゃった。」
風呂の中で伸びをする広海。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 客室 
海都、タオルで髪を拭きながら上着を壁に掛けている。まだ不機嫌である。
海都「なんなんだよあいつは。」
つぶやきながらズボンを手に取ると、砂があふれ出す。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 厨房 
夜、真琴が厨房で刺身の蛸を切っている。が、蛸はキレイに切れていない。
真琴「オッケー。・・・あれ?」
繋がっている蛸に気がつく。
真琴「あっちゃ〜。(笑いながら)まいっか。」
手でちぎって刺身を盛りつける真琴。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 中 
海都が二階から降りてくる。真琴が夕食を運んでくる。
真琴「あ〜、お待ちどうさまでした〜。さ、どうぞどうぞ。」
海都「あ、サンキュ。」
真琴「は〜い。」
広海が上半身裸で風呂から上がってくる。
広海「いやいやいや〜、気持いい!」
広海から目を背ける真琴。
真琴「あー、ちょっと、なんか着て下さい!」
広海「えー?風呂あがりに?」
真琴「はい。」
広海「やーだ、こんなくそ暑いのに?」
真琴「いいから着て下さい!」
広海「しょうがねえな。」
席を立ってTシャツを着る広海。
広海「あーあのさ。」
真琴「はい。」
広海「風呂なんだけどさ。」
真琴「はい。」
広海「いいねーあれね。」
真琴「あー、そうですか?あれウチの、なんていうかウリっていうか、名物っていうか。」
広海「へー、他には?」
真琴「他・・・看板娘かな。」
広海「えっ?誰?誰?」
真琴「いや、何でもないです・・・。」
広海「あさっきいたオジサンと二人なの?」
真琴「あ、そうです。」
広海「お父さん?」
真琴「いや、おじいちゃん。」
広海「親は?」
真琴「ここには居ないんですけど。」
広海「あー、じゃあ年寄りと子供だけでやってるんだ。」
真琴「子供って・・・。」
広海「ん?」
真琴「いや、何でもないです。」
広海「ああ、俺ね、桜井広海。えーとね、広海は広い海って書くんだよ。何かここにぴったりだねー。何年生?」
真琴「2年です。」
広海「中2か。」
真琴「高2です!」
驚いて顔を見上げる二人。
真琴「なんですかー。」
広海「(海都の肩を叩きながら)聞いた?聞いた?聞いた?見えないよね。」
海都「(首を傾げて)さぁ。」
真琴「ごゆっくりどーぞ!」
機嫌が悪くなり厨房に戻ろうとする真琴。
広海「あ、ごゆっくりって俺客じゃないんだよ。」
真琴「(振り向いて)はぁ?」
広海「ほら、バイトさしてもらおうかなと思って、ここで。」
真琴「最初っからじゃあ言って下さいよー。」
広海「あれ、言わなかったっけ?」
真琴「言ってない。」
広海「あーあーあーあー、そっちが言ったんだよ、お風呂どうぞ今ビール持って来ますって!」
テーブルの上の料理をかたずけようとする真琴。海都と目が合う。
真琴「あ、じゃあなたもこの人の仲間。」
広海「あー仲間仲間、何で?」
海都「何いってんの?あのー、この人とは他人、全然関係ないから。」
広海「そんな、冷たい!」
海都「冷たいとかそう言う事じゃないでしょ。他人は他人なの。」
広海「そうかな。」
海都「そうだよ。」
広海「だって、夏ですよ、ホラ夏。」
海都「んん?またワケのわかんないことさっきから・・・。」
真琴「で、お客さんなんですか?」
海都「だからそうだって!・・・いや失礼、あのー、1週間ほど泊めてもらおうと思って。駅のタクシーの運転手さんに勧められたんだここ。」
真琴「はぁー、あー蓑田さん。いくらでした?駅からここまで。」
海都「確か二千円ちょっと。」
真琴「ホントはその半分で来ます。」
海都「えっ?」
広海「それね、ぼったくられてんの。ね、解る?流行ってんの今。もっと人生勉強した方がいいよ。ねー、もっとさー。いろいろ解ることあるんだから。」
真琴「あのー、これ書いてもらえます?
海都に宿帳を渡す真琴。
海都「ああ、はいはい。」
海都が書くのをのぞき込む広海。
広海「すずき、かいと?え〜、名前似てる、俺もね、海つくの。海好きなの?」
海都「親がね。自分がつけたわけじゃない。」
広海「あー、そうだよね。親が付けた名前だね。」
真琴「あの、前金でいいですか?」
海都「ああ、はい。」
広海「毎度どーも!」
海都「あのーいくらかな?」
広海「How much ?」
真琴「ああ、1泊2食付きで4500円。」
広海「よんごーだって。」
ズボンのポケットをさぐる海都。
海都「あれ?」
真琴「え?」
テーブルの下を探す海都
海都「あのー、財布、ちょっと・・・。2階行こう。」
真琴「えー?」
広海「逃げちゃダメだよー。」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 2階客室 
海都が入ってきてジャケットやカバンを探す。続いて広海と真琴も入って来る。
海都「あれ?あれ?・・・無い。」
広海「よくないな〜、金がないならないって正直に言わないと。」
海都「何言ってんだよ。あ!あん時だ。」
広海「え?」
海都「あん時だって。」
部屋を出ていく海都。ついていく広海。
□ ルノーが落ちた海の前 
潮は満ち、満潮である。3人がその前に立ちつくす。
広海「あらららららら、こんな潮満ちちゃって。これー、海の中ですねー。」

(3)へ続く



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