● 第一話 『夏、変なヤツがやってきた、同時に二人も』 (3)
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 従業員部屋
ダイヤモンドヘッドの従業員部屋に二人を案内する真琴。
真琴「(扉を開けて)どうぞ。」
広海「タッタカッタッタ、タッタカタ。(部屋に入った瞬間)うわ〜、あつ〜。」
部屋の電気をつける広海。
広海「ねぇねぇねぇ、暑いよね。窓開けよ。」
窓を開けて外を眺める広海。
広海「海!星!(振り向いて)ヨロピク!」
海都「何がヨロシクだよ。アンタといるとろくな事ないんだよ。」
広海「そうかな。」
海都「そうだよ。」
広海「ホレッ、ホイッ。(缶ビールを投げてよこす)冷蔵庫からかっぱらってきました。ね、悪いことばっかじゃないでしょ。」
広海をにらみつける海都。缶ビールを置く。
海都「ちょっと、どいて。」
広海「ん?」
海都「ちょっとどいてよ。」
広海「なになになに〜?」
立ち上がる広海。広海が座っていた布団をひき始める海都。
海都「ったくなんでこんなとこ来ちゃったんだ。」
広海「ね、ね、ね、ね、ね、寝ちゃうの?もっと語りあおうよ。なんかこういうのっていいじゃん。」
海都「どこがいいんだよ。」
広海「だって、見ず知らずの人間が、ふとした拍子に出会って、同じ部屋で寝泊まりしながら、一夏を過ごす。なーんかいーじゃん。
海都「君と一夏を過ごすつもりはない。」
広海「そんな、せっかく友達になったのに。」
海都「友達になんかなっていない。」
広海「わかった。そういうさ、クールな感じ女にもてると思ってるんでしょ。違う違う違う。今の時代違うよ。」
海都「そうなの?」
広海「多分・・・。」
海都「ったく君は。(舌打ちして)いったい何なんだ、君は。」
広海「人間だよ〜。なーんてガキの頃やらなかった?言ったでしょ。言ったよね?ね、ね、ね?」
海都「言わない。」
広海「ウソ?『生意気なんだよーおまえー』とかって言ったら、『だってナマで生きてるもーん』なんて言わなかった?言ったよね?言った・・・」
海都「(広海の言葉を遮って)言わないよ。」
広海「あー、わかった友達いなかったんだ。だいたいさーホラ、ガキの頃って成績の良さと友達の数って反比例してましたもんね。」
海都「あのさ!ちょっとそうやってキャンキャンキャンキャン喋るのやめてくれない?必要以上に喋る人間って自分に自信がないのの裏返しらしいよ。言うでしょ、弱い犬ほど・・・」
広海「よく吠える!」
海都「そう。」
広海「ピンポンピンポーン。でもまあさ、夏だしいいか!ね〜。」
海都「いったい何なんだよ君は。」
広海「だから『人間だよ』なんてね。しつこい?しつこい?」
海都「だいたいさ、君、何者?何してんの、いったいこんなところで。いい年して、金もなくて。こんなところでアルバイトなんかして。」
広海「すいません。いや〜なんかいいなー、説教されるのって。」
広海を無視して再び寝床の準備を始める海都。
広海「でもさー、あれだよねホラ、俺達ってさ、こんなことでもなきゃ〜、話すことなんか一生無かったんだしー、旅っていいっすね・・・。あ、そうだ!子供の時に見たテレビの話とかしようよ。」
海都「テレビ?」
広海「あー乗ってきた乗ってきた。俺達の時代ってやっぱ仮面ライダーだよね。」
広海に背を向けて寝ようとする海都。
広海「あれー、ライダー嫌い?」
□ スナック渚 
春子がテレビを見て笑っている。奥の部屋から蓑田が春子に話しかけようとする。そこへいきなり真琴が入ってきて、蓑田は残念そうに引き返す。
真琴「こんばんは〜。あ〜喉かわいた。」
冷蔵庫から勝手に麦茶を出して、カウンターに座って飲む真琴。
春子「ねねねねね、誰?」
真琴「何がですか?」
春子「いい男が二人も来ちゃってさ。なんか、モヤモヤしない?」
真琴「はー、全然。」
春子「でも面白そうじゃんあの二人。」
真琴「そうですか?」
春子「うん。」
真琴「いいですよねー、春子さんは。」
春子「悩みがなくて?」
うなずく真琴。
春子「真琴ちゃん、悩みがないのと悩まないって言うのは違うんだな。解る?」
首を横に振る真琴。
春子「いくつになった?」
真琴「17です。」
春子「17か〜。私が東京行く前だね。その頃の私、ブイブイ言わしてたもんねー。」
真琴「ブイブイ?」
春子「聞きたい?ブイブイの話。」
真琴「いいや。」
春子「あそ・・・。ここ来てどんくらい?」
真琴「うーん、6年生の時だから、5年。」
春子「もうそんなもんかー。お母さんから連絡あるの?」
首を横に振る真琴。
春子「お父さんは?」
真琴「あー、関係ないから。」
春子「(真琴を見つめて)・・・思春期だよね〜。」
いきなり真琴のほっぺたをつねる春子。いやがる真琴。
真琴「(コトバにならない声で)何!?え、何!?」
春子「あ、ちょっと弾力弾力。」
真琴「はぁ?」
今度は自分のほっぺたをつねる春子。
春子「は!おんなじ。(嬉しそうに笑いながら)おんなじおんなじ〜。」
あきれ顔の真琴。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 従業員部屋
広海「いやー俺ね、ライダーマンのファンだったんですよ。彼は、他の仮面ライダーのような改造人間ではなくて、元はデストロンの科学者だったんですよ。初めは、初めはね、結構V3にも反感持ってたんですけど、でもしだいに助けあうようになっていくわけだ。でもね、所詮彼は人間。マシンも、他のライダーみたいなかっこいいヤツじゃないの。泣けるんだよな〜これが。でもねハリケーンなんか、ホラ600キロとか出るのに、ライダーマシンなんか、200キロも出ないんだよね。武器だって、デストロンのせいで失った右手を、こう、なんかアタッチメントみたいにして、それだけ。その中途半端さが、泣けるんだよ。」
一人で喋り続ける広海。広海に背を向け、毛布をかぶって寝た振りをしながら話を聞いている海都。
広海「でねでねでねでねでね、そのライダーマンが、最後に命がけで東京を守るんだけど、ロケットと一緒にね、こう、空中で自爆するんだよね。そこで、そこでだ、V3は死んだ彼に、仮面ライダー4号の名前を贈るんだよ。いい話でしょ〜。」
海都の反応がないので、海都の顔をのぞき込む広海。さっと目をつむる海都。
広海「なんだよ寝たのかよ〜。」
ため息をついて布団に潜る広海。少しの間を置いて海都がつぶやく。
海都「丈二だよ。(おもむろに起きあがる)結城ショージじゃなくて結城丈二だ!それにライダーマンのマシンは250キロ出るようになってんだよ!」
広海の表情を伺う海都。が、広海は既に眠っている。ため息をつく海都。
□ ダイヤモンドヘッド前の海岸
若者の集団が海岸で遊んでいる。その中の一人が波打ち際に打ち上げられている財布を見つける。盛り上がる若者達。
□ ダイヤモンドヘッド 厨房 
次の日の朝。厨房から大音量の音楽が聞こえてくる。その音に起こされる海都と真琴。厨房に降りていく真琴。広海が朝食の準備をしている。真琴、テープのスイッチをとめる。
広海「おはよう!」
真琴「おはよー」
広海「イェイ、もうすぐできっからな、朝御飯」
再びテープのスイッチを入れる広海。
広海「(鍋をさわった瞬間)あちっ!あ、あ、あ、あっち!あっち、あっち、あっち!」
□ ダイヤモンドヘッド 居間 
二階から降りてくる海都。厨房から出てきた真琴と会う。
海都「ああ、おはよう。」
真琴「ああ、おはようございます。」
椅子に座る海都を見つめる真琴。
海都「(居心地悪そうに)あの・・・俺は客だからね、客。」
真琴「あぁ・・・一応。」
海都「一応じゃなくて客。」
真琴「お金持ってないくせに?」
□ ダイヤモンドヘッド 厨房 
広海の隣で焼き魚の盛りつけをしている海都。
広海「あー、ったくへたくそ。何それ?ちまちまちまちま細かくやってんの!?もいいよ俺やる。」
海都「いいよ、やるよ俺が。」
広海「あー負けず嫌い。」
海都「うるさいんだよ朝から。うるさいなーもうホントに!」
カセットテープをとめる海都。
海都「言っとくけどショージじゃなくて丈二だだからな。」
広海「ええ?」
海都「ライダーマンは結城丈二だって言ってんの。」
広海「何それ?あぁ!あぁ!聞いてた!はぁ〜細かい堅い負けず嫌い!」
海都「間違ってるもんは間違ってるんだよ。」
広海「すみません。でも、その魚の頭の置き方なんですけど、そのね、魚の頭の置き方、左だと思うんですよこれはね。」
海都「そうなの?」
広海「すいません、あの間違ってるもんは間違ってるんで。(にやける広海)」
海都「・・・やなヤツ。」
二人の様子を真琴が後ろからのぞき込む。
真琴「仲いいんだ。」
広海「仲いい〜」
海都「(広海の言葉を遮るように)よくないよ!」
そこへ勝が起きてくる。
真琴「あ、おはよー。」
「おう。」
広海「おはようございます!あ、これちょっと、食べて下さい。自信作なんです。」
勝に卵焼きを渡す広海。それを食べる勝。勝の表情を伺っている広海、海都、真琴。
「うめえな。」
広海「っしゃー!」
続いてつまみ食いする真琴。
真琴「ふーん、あ。(海都にも卵焼きを差し出す)」
「お前これ何処で覚えた?」
広海「まあ、なんつかあのー、一緒にいた女が、味にうるさかったもんで。」
海都「なんだよそれ。」
広海「まなんていうかね、あのー。」
「ヒモだ。」
広海「そのとーりー。」
真琴「サイテー。」
広海「こういう生き方もあんだよ。」
首を傾げる海都。

(4)へ続く



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