● 第一話 『夏、変なヤツがやってきた、同時に二人も』 (5)
□ 民宿ダイヤモンドヘッド前
勝が中から出てくる。海都が岩の上で海を眺めている。それを見る勝。そこへ春子がやって来る。
春子「こんちは〜」
「おう」
勝に買い出しの箱を渡す春子。
春子「あいよ」
受け取る勝。
「はい、サンキュー」
バイクのクラクションを鳴らして、殿村が現れる。玄関の前にバイクを停める。
殿村「どうも〜。はいこれさ、はい請求書。(カバンから手紙を出して勝に渡す)」
「おお〜公三お前もうちょっといいもん持ってこい。」
殿村「またね」
帰ろうとする殿村を春子が呼び止める。
春子「あ、ねねねね、私には?」
殿村「悪いね春ちゃん、今日はないのよ。」
春子「あっそ・・・はい。ご苦労さん。」
帰っていく殿村。
「まだ手紙待ってんのか?」
春子「・・・まあね。」
「うーん、そうか。」
春子「うん、そうだ。」
「来るといいな。」
春子「うん、来るといい。私にはさぁ、あの郵便配達の公三クンが、キューピットなんだ。」
「ふーん、ずいぶんきたねえキューピットだな。」
吹き出す春子。
春子「まあね。」
□ ダイヤモンドヘッド近くの岩場
一人海を見つめている海都。そこへ釣り竿を持った広海が現れる。
海都「何?」
広海「え?」
海都「何だよこれ?」
広海「はい!」
海都に釣り竿を渡そうとする広海。
海都「いいよ俺は。」
広海「イヤよくない。自分の分は自分で釣るってことになってんだよ。」
海都「なんだよそれ?」
広海「はいはい」
釣り竿を渡す広海。仕方なく釣りを始める海都。
広海「あ、釣れなかったらホラ、あの今日の晩飯無いからね。」
ふらつきながら釣り竿を持って、釣り糸に手を伸ばそうとしている海都。
広海「あーあー危ねえ、あ、しょーがねー、あ、ああああああ」
二人の釣り糸が絡まってしまい文句を言い合う海都と広海。
ダイヤモンドヘッドの玄関でそれを眺めている勝と春子。
春子「ヘンなのが来たね〜、同時に二人も。」
「ああ・・・。」
□ 真琴の高校 教室
お弁当のふたを開ける真琴。「MAKOTO」という文字が書かれている派手な中身である。
真琴「うそ〜」
そこへ裕子がやって来る。あわててお弁当のふたを閉じる真琴。真琴達の奥でこちらをちらちら気にしている祐介。
裕子「ねえねえ真琴。」
真琴「ん?」
裕子「さっきの誰さん?誰さん?」
真琴「え?さっきのって?」
裕子「そのお弁当持ってきた人。」
真琴「あー、あれー、ウチの従業員。」
裕子「ふーん、かっこいいね。」
真琴「そーう?」
裕子「うん、ちょっと・・・バカっぽいけど。」
真琴「(笑いながら)確かに。」
と、真琴達の隣にいる男子生徒が祐介の机から何かかが描かれた紙を見つける。/TD>
男子生徒「おい祐介なんだよこれ?」
祐介「おいちょっと・・・やめろよ、おいおいおい」
あわてて紙を取り戻そうとする祐介、その紙が真琴の側に落ちる。それは居眠りをしている真琴の絵だった。真琴の手からその絵をひったくるようにして奪う祐介。
祐介「あ、いけね、よだれ描くの忘れた。」
真琴「え?」
席に戻る祐介。あわてて口を拭う真琴。裕子に笑われて膨れる。
□ ダイヤモンドヘッドの近くの岩場 
広海と海都が釣りをしている。
広海「あ、ちくしょ。また食われた。あったまくるよね、魚の野郎さ、人をバカにしやがって、ねえ?」
海都の反応無し。
広海「(海都の方を向いて)ねえ!」
海都「別に」
広海「あそう・・・あー腹減った。あ、何が好きです、食い物?」」
海都「別に。」
広海「あ、あそう・・・ガキの頃さ、夏休み楽しかったよねー。何であんな楽しかったんだろ。俺なんかさー、別にホラ、学校行くのがイヤだったーとか辛かったーとかそう言う思い出特にないんだけど、それでもやっぱ夏休みは楽しいんだよね。もうワクワクワクワクしちゃって、あれしよこれしよって結局たいしたことなんか出来ないんだけどさー・・・(急にまじめな顔になって)何で大人にはないんだろ。」
大きな波が打ち寄せる。
海都「え?」
広海「ホラ、ちょっと大人は働き過ぎですよ。」
海都「ヒモだったんだろ?」
広海「いや、あれはあれで、ホラ、立派な労働ですから。」
海都「そう。」
広海「でも捨てられちゃいましたけどね。」
海都「いい加減でいいよな。」
広海「かーもねー。」
海都「何が大人は働き過ぎだよ、ふざけんなよ、当たり前なんだよそんなの。」
広海「そうかな?」
海都「逃げてるだけなんじゃないの?そうやってヘラヘラしてさ、大事なことから逃げてるだけなんじゃないの?」
一瞬真面目な表情になる広海。だがすぐにいつもの調子に戻る。
広海「いやーなんかいいなー、こういうのってのは、ホラ青春って感じがしてさ。やっぱ夏の海って青春だよね、♪青春〜、あ、何か歌いたくなってきた。あ、カラオケとか好き?ね、どんな歌・・・」
海都「(広海を遮って)ちょっとさ!ほっといてくんないかな、俺のこと。何でそう俺に絡んでくるわけ?」
広海「うん、その方がいいかなと思って・・・」
海都「なんだよそれ。どういう意味だよ?」」
広海「民宿に一人で来るって言うのは、なんか寂しいのかなって、そう思って。
海都「俺は別にそういう・・・」
広海「だってだってほら、誰とも喋りたくないってほっといてほしいんなら普通民宿なんか来ないでしょー!」
海都「・・・・・・」
広海「・・・それにホラ、車で立ち往生してるの助けてくれたし・・・。ま、俺が女だったら、恋が始まっちゃう、あの一夏の恋って言うか・・・」
黙り込む海都。それを見た広海。
広海「・・・黙りますね、うん。(苦笑い)」
宙を見つめている海都。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 従業員部屋 
<従業員部屋に海都が入ってくる。と、うしろから真琴がやってくる。/TD>
真琴「あ、あのー、すぐ側に渚って言うお店があるんですけど今日の夕食はそこで。」
海都「え?」
真琴「あ、あのへんなヤツの歓迎パーティも兼ねてっておじいちゃんが。」
海都「・・・そう・・・うーんでも、いいよ俺は。」
真琴「あ、でも行かないと夕食無いですよ。」
□ スナック渚 
カウンターで真琴、勝、広海、海都の4人が食事をしている。渚店内は大勢の客でにぎわう。春子と殿村が忙しく働いている。
春子「はいはいはーい、お待たせしました〜。」
奥の部屋で団体が騒いでいる。
春子「ごめんねー、急に忙しくなっちゃってさー。」
真琴「食べたら手伝うから。」
広海「ああ、いい、俺、俺手伝うよ。」
席を立って厨房に入る広海
春子「ホントー?よろしく〜。」
団体客「ねえおねーさん、灰皿替えてくんないかな?」
春子「はーい。」
広海「(春子に)ああ、行って。」
「(広海に)ああ、釣れなかったんだってな、一匹もな。」
広海「(苦笑して)はい。」
「釣れねえんだーあそこは、全然。」
広海「なんで教えてくんないんですかー?」
「そう簡単に教えられっか。」
広海「またー、そうやってもったいぶっちゃって。」
「まあそのうち教えてやるよ。」
苦笑する広海、黙々と食事を続ける海都。
団体客「ねえ、この店カラオケできんの?」
春子「はい、ありますよー。はいどうぞ。」
海都<「ごちそうさまでした・・・お先に。」/TD>
席を立って店を出る海都。ため息をつく広海。夜道を一人帰る海都。満月が照らす。
しばらく時間の経った渚店内。勝は奥の部屋で眠りこけている、団体客が帰りぎわ、お代を払おうとしている。
団体客「(財布を広げて)おう、いっぱい入ってるよ。」ラスト3万!
団体客「(財布からお金を出して)ラスト3万!」
団体客「イェーイ!」
団体客「3万、もうお釣りいらねえよお釣り。」
春子「あー、どうも〜。ありがとうございましたー。」
騒がしく出ていく団体客達。財布からカードのようなモノを落とす。それに気づいた広海。
広海「あ、すいません、なんか落としましたよ・・・あれ?」
それは海都の写真入りの、彼の会社の社員証であった。
真琴「あーこれー!」
春子「総和物産?あいつエリートだったんだね。」
広海「なんかこの写真堅くない?顔。」
春子「いやーん」
笑いあう広海と春子
真琴「あ、ちょっと待ってでも、なんでこれがここにあるの・・・?」
はっとする3人。その瞬間、店を飛び出る。
広海「待てー!」
さっきの団体客を追いかける広海、春子、真琴。
□ ダイヤモンドヘッドへ続く坂道
逃げる団体客達。先に店を出て歩いていた海都を追い越そうとする。
広海「おい!そいつら捕まえろ!」
振り向く海都。海都をかき分け逃げる団体客。わけもわからず、広海と一緒に追う海都。
ダイヤモンドヘッド前の海岸までもつれ込む。乱闘を始める広海、海都と団体客達。春子と真琴も追いついて加勢する。やっとの事で財布を取り戻す広海、笑顔でそれを海都に放ってよこす。財布をキャッチした海都、やっと事情が飲み込める。
海都「あっ!」
笑顔の広海。複雑な表情の海都。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 従業員部屋
部屋の中で顔に絆創膏を貼って傷の手当をしている広海と海都。
海都「・・・あのさ・・・サンキュ。」
少しにやけるが、無言の広海。しばしの沈黙。
海都「・・・・・なんかさ・・・ねえなんか、喋れば?」
広海「えっ?いいの!?いやーよかったー辛かったんだよね、黙ってんの。」
海都「(驚きの表情で)え?」
広海「(嬉しそうに海都の元にすり寄って)いやさー、久しぶりのケンカだったよね。やっぱ、夏の夜と言えばケンカ。ケンカと言えば・・・」
海都「(イヤそうに)ああああ、・・・いや、黙ってて。」」
広海「遅い遅い、今日は語りますよ。」
広海に飛びかかる海都。広海は楽しそうである。

(6)へ続く



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