● 第一話 『夏、変なヤツがやってきた、同時に二人も』 (6)
   
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 厨房 
翌日の朝、厨房で広海と海都がオムレツを作っている。相変わらず大音量のBGMがかかっている。その音に起こされる真琴。居間へ降りていくと、勝が既に起きている。目を合わせる真琴と勝。あきらめの表情を浮かべる勝。微笑む真琴。厨房からは広海の騒ぎ声が聞こえる。
海都「手伝ってやってんだろ、いちいちうるさいんだよ。」
広海「だからもうホラ違うっつーの!」
海都「言っとくけど俺は客だからな。」
広海「あんたが、あんたが『料理教わりたい』って言ったんでしょ!」
海都「言ってないよ、俺は『うまかった』って言っただけだよ。あんたが教えてやる教えてやるって。とにかく俺は客だから。」
広海「かー、解ってないねこの状況、ここはね、客も従業員も一緒なの、わかってない〜。」
海都「そんなバカな話があるかよ。」
広海「あるの。わかここはあるの。」
海都「んーもういい、もういい、もうやめた!(箸を投げつけて厨房を出ていく海都)」
広海「あー逃げてる逃げてる逃げてる逃げてる逃げ!」
海都「うるさいよ!」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド入り口 
ダイヤモンドヘッドの入り口に海都が腰掛けている。そこへ春子が買い出しの箱を持ってやってくる。
春子「おーす。ホイ。」
海都に食材の入った箱を渡そうとする春子。
海都「いや、俺は客だからさ。」
春子「あのねー、今日の特売はレタスとレモンだったんだー。
海都「(ひきつりながら)俺は客だから・・・」
春子「はは。誰か待ってるの?」
海都のとなりに腰掛ける春子。
海都「ああ、郵便。」
春子「へー、あんたもキューピット待ってんだ。」
海都「は?」
そこへ、クラクションを鳴らして殿村がバイクでやってくる。
殿村「おっす。」
春子「ねえ、私には?」
殿村「あーはるちゃんには無いなー。うーん。」
春子「ないか・・・」
海都「あーあのー、鈴木海都宛にはありませんか?あの、民宿の。」
殿村「現金書留ね。ハンコ。(ハンコを渡す海都)あ、はい。はいどーも。はい、ハンコね。(ハンコを返す殿村)はい。じゃあはるちゃんまたねー。」
春子「うーん、バイバーイ。」
殿村「うーい。」
現金書留を手にしてにやける海都。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 居間 
真琴に一万円札を何枚か渡す海都。
真琴「確かに。ありがとうございました。」
うなずく海都。その様子を、これから釣りに行く格好をした広海と勝が入り口付近でじっと見ている。ゆっくりと部屋に帰ろうとする海都。広海とすれ違いざま振り向いて、
海都「(さっき春子から受け取った買い出しの箱を指さしながら)あのー、これよろしくね。」
広海「なに!」
海都「よろしく。」
広海「なーに!」
「はい行くぞ。」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 2階客室
客室に入ろうとする海都。広海が追って来て引き留める。
広海「あーねーねーねーねーねー、よーく、落ち着いてみて考えて下さい。」
海都「何を?」
広海「(海都の手を取って)胸に、手を当てて、ゆっくりとゆっくりと目をつぶって考えて下さい。寂しくないですか?」
海都「まったくない。何故なら俺は、客だから。」
そう言うと扉をバタンと閉める海都。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 夜
従業員部屋で広海がぐっすり寝ている。客室では海都が寝苦しそうにしている。なかなか寝付けないで居る海都。何度も寝返りを打つ。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 翌日
昼。バルコニーの椅子に座ってタバコをふかしながら本を読んでいる海都。隣で広海が洗濯物を干している。満足げな海都。そこに広海がワザと投げつけたバンダナが飛んでくる。
広海「ごめーん!」
機嫌を損ねてバンダナを投げつける海都。
夜。満足げにドラム缶風呂に入っている海都。風呂の火を熾している広海。が、薪の煙でむせる海都。また言い争いになる。それを中からとても愉快そうに笑ってみている真琴。
厨房。広海、勝、真琴の3人でにぎやかに流しそうめんをしている。居間では海都が一人で流しそうめん機をつかってそうめんを食べている。そこへ厨房から真琴が顔を出す。
真琴「あのー、もしかして英語とかって得意ですか?」
海都「うん、まあ。」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 真琴の部屋 
海岸で拾った瓶に入っていた手紙を、海都に見せる真琴。
海都「へー、その瓶の中に?」
真琴「はい。」
海都「でもこれ、読めないなにじんちゃってて。」
真琴「やっぱそうですよねー。」
海都「うーん。最後のとこだけしか。」
手紙を真琴に返す海都。その手紙を再び壁に貼る真琴。手紙を見つめながら
真琴「あー、でも、南の島の人とかが書いたんですよね。なーんかちょっとロマンチックだと思いません?ここの海だって、ずっと繋がってるんですよね。ハワイとか、オーストラリアとかと。」
海都「そっか、太平洋だもんね一応。」
真琴「(不満げに)一応?」
海都「あーいや、ああ、いいことあるんじゃないのかな、拾った人は。」
真琴「そーですか?そう思います?」
海都「うん。」
微笑む真琴
□ 防波堤 
翌日、防波堤で広海と海都が釣りをしている。真琴も一緒でありる。
広海「お客さん。そこ釣れないよ。」
海都「いいの!」
広海「素直じゃねえな。」
海都「なんか言った?」
広海「あ、言ってない言ってない言ってない。」
二人のやりとりに微笑む真琴。クーラーボックスを開けようとすると、はづきが散歩しているのを見つける。
真琴「あ。」
広海「誰?」
真琴「別荘の人。時々来るんだよね。」
手を振る広海。
広海「ハロー!」
一瞬振り向くが、無視するはづき。
真琴「バカは嫌いなんじゃない?」
と、自信ありげな海都も手を振る。
海都「こんにちは!」
再び振り向くが、無視するはづき。海都の笑顔が消える。声を出して笑う真琴と広海。
広海「あんたバカだったんだ。」
海都「言っとくけど俺は客だからな。」
広海「堅いな〜も〜ほんとに〜。」
海都「うるさい。」
□ スナック渚前 
勝が渚の前のベンチに座っている。渚の中から春子がビールを持って出てくる。
春子「なーんかあの二人、このまま居着いちゃったりしてね。」
「さー、どーだろな。」
ベンチに腰掛ける春子。そこへクラクションを鳴らして殿村が現れる。
殿村「よお。」
春子「私に?」
殿村「あ、悪いね、はるちゃん。あ、おやじさん。」
勝に手紙を渡す殿村。
「あ、ウチか?」
その手紙の差出人は和泉慶子。勝の表情が硬くなる。それに気がつく春子
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 中 
厨房で広海がオムライスを作っている。その時にダイヤモンドヘッドの電話が鳴る。居間で雑誌を読んでいる海都。
海都「電話。」
広海「んー?」
海都「電話!」
広海「あー、もうちょっと出てよ!手が放せないんだから!」
海都「俺は客だって言ってんのに。」
広海「俺は客だって言ってんのに!とか言ってんでしょ。」
いやいや電話をとる海都。
海都「毎度ありがとうございます、民宿ダイヤモンドヘッドでございます。あ、ご予約ですか?」
広海「やったやったやったー。初めての客!」
駆け寄ってくる広海。それを制する海都。
海都「はい、はい、25日、はい。かしこまりました、ありがとうございます。はい、よろしくどうぞ、お待ちしております。」
広海「なんてなんてなんて?」
勝が入って来る。
広海「やりましたよ社長!」
海都「あのー、予約の電話です。25日から山田様、2泊。えー5名です。」
「うん、断れ。」
海都「えっ?」
「断れって言ったんだよ。」
広海「なんでですか、せっかく・・・。」
「いーから断れ。お前らには悪いんだけどな、ここは、閉めることにしたんだよ。」
広海「なーにそれ、冗談でしょ?」
「悪いな、勝手言って。」
広海「冗談じゃないですよ、なんでですか!これから本格的な夏じゃないですか。理由を言って下さいよ、理由を!」
「理由は言えねんだよ。申し訳ねえな・・・こっから、出てってくれっか。」
広海「ちょっと待ってよ。」
「頼むよ。」
興奮する広海。制止する海都。
広海「なんだよ、離せよ!」
海都「しょーがないだろ、経営者が閉めるって言ってんだから。」
広海「だってさ、せっかくみんなでさー・・・(ため息をつく広海)・・・解ったよ・・・」
立ちつくす二人。

(7)へ続く



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