● 第二話 『私、ここにいたい』 (1)
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 中 
居間でタバコをふかしながら電話している広海。
広海「そうそう、ダイヤモンドヘッド。じゃあ待ってんかんねー。うん、じゃーねー。」
受話器を置く広海。海都が2階からやって来て椅子に座る。
海都「何やってんの?」
広海「えー?ほら客よ客。とにかく客呼んで、民宿盛り上げてまだまだいける〜ってそう思わせんの。」
麦茶をグラスに注ぐ海都。アドレス帳をめくる広海。
海都「でもその気はないって昨日言ってたじゃん。」
広海「でも帰れって言わなかったでしょ。それってオッケーってことじゃん。」
海都「そうかな〜。」
広海「そうなの!」
海都「そいで友達呼んでんの?」
広海「うん、ほら、営業だって何だって、最初は、家族とか親戚とか友達とかからでしょ。そのネタがつきてきてから、ホントの営業活動が始まるわけでしょー。」
海都「そりゃそうだけどさ。」
広海「誰かいない〜?お客〜。」
受話器のボタンを押しながら話す広海。
海都「俺の知ってる人間はみんな平日ちゃんと働いてるんだよ。そんなすぐ来れるヤツなんていないの。」
海都の言葉にフッっと口元に笑みをうかべる広海。と、電話が繋がる。
広海「あっ、オレオレ、広海、うん。寝てた?うん、ごめんごめん。」
広海の様子に、あきらめの表情で席を立つ海都。
広海「(海都に向かって)あっねぇねぇねぇねぇねぇ。」
海都「(振り向いて)何?」
広海「暇でしょ?(ニヤリとしながら)暇だよね〜。」
憮然とした表情の海都。
□ 市場 
広海と春子が市場で買い物をしている。
広海「悪いね〜ほら、使っちゃって。」
春子「(首を振りながら)うーうーん。相棒どうしたの?」
市場のおじさんにお金を渡す春子。
広海「あー、ほら、一応誘ったんだけどさ・・・」
市場のおじさん「毎度ー!」
春子「俺は客だからー?」
広海「そーいうこと。」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド
居間で一人ぽつんと椅子に座ってじっとしている海都。退屈そうに椅子から立ち上がり、居間をぶらつく。と壁に飾られている写真に気がつく。その中から、ダイヤモンドヘッドの前で両親と幼い娘の家族らしい3人の姿が映っている写真を手に取る。その時、居間に勝が入ってくる。
「おう、どうした?」
海都「あ・・・この写真・・・。」
「あー、これか。これなちょうどここ始めた頃だな。これワイフや。なかなかべっぴんだろ。」
海都「へー。」
「な、お前惚れてもダメだぞ。もう死んじまったからな。そいでな、これが俺の娘。つまり真琴の、母親だ。」
海都「はぁ・・・あれ今、じゃあどうしてるんですか?」
「今東京にいるわ。あいつ、どうもな、ここがあまり好きじゃないらしくてな。高校出たと思ったら、すぐ出てっちまったよ。」
海都「そうですか。」
「で、十何年ぶりかで戻ってきたらなー、離婚してて、それでー真琴をここに置いて、アッという間に帰って行っちゃった。」
写真を元の場所に置く海都。となりにはサーフボードを抱えた勝の若い頃の写真が飾られている。
□ 市場 
買い物している広海と春子。
広海「日本で最初のサーファー?」
春子「(肉のパックを広海の抱えているカゴに詰めながら)そ。と本人は言ってるけどね。ま他にもたくさんいるんじゃないかなそう言ってる人は。・・・証拠ないから。」
広海「へー。」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 居間 
椅子に座って話し込んでいる海都と勝。
「ま、たまたま最初に始めたってだけの話よ。」
海都「へー・・・・えっ?じゃあ幾つの時ここ始めたんですか?」
□ 市場からの帰り道 
食材を抱えて車の方へ並んで歩いてくる広海と春子。
広海「19?」
春子「うん、もう40年近くやってんじゃないかな。」
広海「でもさほら、なんで、ほらそんな民宿閉めようとするわけ?」
春子「うーん・・・歳・・・なんじゃないかな、勝さんも。」
広海「んなことねえよ、んなことないじゃんほら、ダメダメ!そんな民宿潰すわけいかないでしょ!」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 居間 
海都「どうして、ここ始めようと思ったんですか?」
「んん?いや、楽しいかなと思ってな。いや俺はな、難しい事なんて何も考えちゃいないんだ。自分がそうしたい、と思った、じゃーやるかー。それだけよ。・・・シンプルイズベストってヤツだな。」
少しその言葉を考えてから勝の顔を見る海都。振り向いて壁の写真を見る勝。続いて海都も振り向く。勝の家族3人の写真がそこにはある。
□ 海岸沿い 
海岸沿いの砂浜の上を歩いている真琴、祐介、裕子。
裕子「民宿やめるってどういうこと?あいつら帰ってきたんじゃないの?」
真琴「それとこれとは違うからね。」
祐介「聞いてないよそんなの!」
真琴「なーんで祐介に言わなきゃいけないのよ!」
祐介「そりゃあ・・・」
裕子「東京のお母さんの所帰るの?」
真琴「うん、そうなりそう。」
裕子「いつ?」
真琴「夏休みになったら。」
裕子「えー!?」
祐介「すぐじゃねえかよ!」
真琴「そうだよ。」
裕子「そーんなー。」
がっかりしてうなだれる祐介裕子。
真琴「ちょっと、そんな暗くなんないでよー。」
□ 海岸線を走るルノー車内 
買い物帰りの広海と春子が乗っている。
春子「はー、しっかしあっついねーこの車。」
広海「俺だって暑いんだよ。でもね、夏は暑い。あの、自然のままが一番!うん。」
春子「あーなるほど。」
と、前方の道路端をはづきが歩いているのを見つける広海。
広海「あれ?」
春子「は?」
広海「(はづきを指さして)ほらあの子。確か別荘の子とか言ってた。」
春子「あーあ、うん、なんかね、(胸のあたりを押さえて)ここ、心臓悪いんだってさ。時々週末来るんだ。」
広海「うんでもほら、そうは見えないけどね。」
春子「うーん、ね。」
はづきの横にルノーを寄せ、サンルーフから身を乗り出す春子と広海。
春子「こんちは!」
広海「(Vサインしながら)ぴーぃっす!乗ってく?狭いけど。」
はづき「・・・歩きたいんです。」
広海「ああそっか、あのさほら、よかったらさ、今日一緒にバーベキューやるからおいでよ。な!」
とまどいの表情を見せるはづき。
広海「じゃあね〜。」
春子「ばいばーい。」
走り去るルノー。ルノーを見つめるはづき。
広海「でもさ、ほら、普通身体弱かったりしたらさ、空気のいい高原とかで静養するんじゃないの?」
春子「あー、好きなんじゃない?海が。」
広海「あ、だよなー?やっぱー、ほら、好きなところにいるのが一番身体にいいんだよね!」
春子「おう!」
広海「うーんそうだよ。」
嬉しそうな広海と春子。
□ 海岸線の浜辺 
海を見つめながら波打ち際ではしゃぐ祐介裕子を、ひとり道路端から見つめている真琴。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド テラス 
テラスに腰掛け、海を見つめて何かを考えている海都。
勝(声のみ)「シンプルイズベストってやつだな。」
□ オープニングへ 

(2)へ続く



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