● 第二話 『私、ここにいたい』 (2)
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 前 
海辺では広海が薪割りをしている。海都はその様子を見ながら、ダイヤモンドヘッドのデッキに座って本を読みながらくつろいでいる。
そんな海都の前を、広海がわざとらしく通り過ぎて建物の中へ入っていく。
広海「あーちょっと失礼。いそがしいそがし。」
中から重そうに折り畳みテーブルと椅子を出してくる広海。
広海「どっこいしょ、どっこいしょ、どっこいしょ!」
またわざとらしく海都の前を通り過ぎる。
広海「邪魔なんだけど、邪魔なんだけど。どっこいしょ!」
それをよける海都。
海都「なんだよ・・・何が言いたいんだよ。」
広海「え?いや、いやー忙しい忙しい!」
海都「だから何が言いたいんだって!」
広海「あのね、いや、あのー、一人じゃ大変だなーと思って、ほら、忙しいじゃん。」
海都「何?」
広海「ぜーんぜん全然、あのホラ手伝ってもらう気なんかないから!」
ため息をつく海都。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 前 
薪割り場に広海がどっさり薪を持ってくる。
広海「よろしく!」
海都「え?」
広海「えじゃないよ、俺ホラ、魚釣ってくるから、ね、薪割っといてよ。」
海の方に去っていく広海。仕方なく斧を手に取ろうとする海都。斧は木にめり込んでいてなかなか抜けない。悪戦苦闘の末、転んでしまう海都。海都は薪割りがとてもへたくそである。その様子を、釣り場から眺め、笑っている広海。
□ 九重駅前
電車から一人の女性が降りてくる。駅前には殿村のタクシーが停まっている。車の中で居眠りをしている殿村。タクシーの窓をコンコンと叩いて殿村を起こす女性。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 前 
まだ薪割りをしている海都。うまく割れない。そこへ釣りから戻った広海が近づいてくる。
広海「貸して。」
斧を広海に渡す海都。広海の振り下ろした斧は、薪をキレイに二つに割る。少し驚く海都。
広海「ガキの頃さ、ボーイズスカウトやってたんだよね。こう見えても、結構おぼっちゃんだったりして。見えないでしょ?」
海都「ああ、全然。」
広海「あんまり力入れすぎないで、あの、こう、引力利用するって感じ。・・・ちょっと待って。」
新しい薪を台に乗せる広海。
広海「やってみる?」
斧を受け取る海都。力んで振りかぶろうとする。すかさず、
広海「力むとね、失敗すんだよね、なんつの、あのまあ、人生と一緒、分かる?」
海都「余計なこと言わなくていいんだよ。」
広海「え?」
海都の斧は見事に宙を切る。
広海「ここ、ここ、ほらこの下・・・あ・・・」
蓑田のタクシーが滑り込んでくる。
蓑田(後ろを振り向いて笑顔で)「100円です。」
タクシーから降りてくる桜。
海都「あれ桜。」
「来ちゃった。」
広海「来ちゃった?」
「何してるの?」
海都「え?ああ。」
急に斧を放り投げる海都。広海の足にあたる。
広海「あいって!いった〜。」
海都「あごめん。」
広海「なんだよ、痛いよ・・・どうも〜いらっしゃいませ、お泊まりですか?。」
「はい。」
海都の肩を抱き後ろを向く広海。
海都「何だよ。」
広海「オタクもお客さん呼んだんだ。」
海都「違うんだよ。」
広海「桜井広海と申しまーす。」
「山崎桜です。」
広海「桜?何?妹?」
海都「違うんだよ。」
広海「妹じゃないのに桜なの?」
海都「違うって!何言ってンだよ。」
「誰?この人?」
海都「あのー民宿の人。行こう。」
Vサインする広海。桜の肩をとって中に入ろうとする海都。そこへ富士子の声。
富士子「やっほー!」
車に乗って現れる富士子。
富士子「おっす!広海。」
広海「おせーじゃねーかよ。あれ、一人かよ?」
富士子「みんな明日来るって。」
車から降りて、荷物を広海に投げつける富士子。
広海「なんだなんだ?新しい男は?」
富士子「別れた。」
広海「早いね〜。」
富士子「まーねー。(海都と桜の背中に向かって)こんにちは!あっ!この人が広海が言ってた日本経済?」
海都「へ?」
富士子「そうでしょ。エリートだけど、すっごいいいヤツだって。俺の次くらいにかっこいいんだって!」
あわてる広海。富士子の前に立ちはだかる。
広海「おいおい。」
富士子(広海を無視して)「ここで一緒に働くことにしたんだ。」
「働く?」
海都「いや、してません、客です俺は。」
富士子「なんだ。」
広海「余計なことべらべら喋るなよ。」
富士子「なによわざわざ来てやったのに!」
広海「わかったからもう黙ってろ、バカ。」
4人の様子を遠くから眺める勝。
富士子「バカ?何それ、あったまきた!アンタが頼むから、来てくれって言うから来たんでしょ。ワーッっと盛り上がって素敵な民宿ねーとか今度また来たいですーとかなんとか言えって言うからさー。」
広海「いやーだから、わかったわかった俺が悪かった。」
富士子「ホントに解ってるの?」
「何の話?」
海都「いやー、大したことない話・・・行こう。」
民宿の中に入ろうとする海都と桜。
広海「あ。」
後を追う広海。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 客室1 
ダイヤモンドヘッドの客室、広海と富士子がいる。
広海「ったくお前が余計なことベラベラベラベラ喋るからさ、台無しじゃんかよバレバレだよ。」
富士子「ごめんー。じゃあご機嫌直しに、ねぇねぇ。(広海の腕をつかむ。)」
広海「ナニナニナニ。」
富士子「どれがいい、どれがいい?」
広海「どれでもいいよんなのー。」
ベッドの上には2種類の水着が広げてある。一変して興味を示して水着を見つめる広海。
広海「(一方を指さして)・・・あ、やっぱやっぱコレ。このセットセット。」
富士子「これ?オッケー。じゃあ着替えよ。見てく?」
広海「あ、ダメダメダメ、俺、ほら、ここの従業員だから。」
富士子「だからー?(不思議そうな顔をする富士子)」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 客室2 
富士子の部屋を出て、桜の部屋をノックしようとする広海。中から海都と桜の声が聞こえる。
「迎えに来たの。」
海都「どういうこと?」
「だって突然こんなもの渡して、いなくなっちゃうんだもん。」
海都に預かっていた時計を返して、ベッドに腰掛ける桜。
「もう戻ってこないつもりなのかなと思って。」
海都「まさか。」
桜のとなりに座る海都。
「そう?ほら、さっきだってここの人みたいにもう馴染んじゃってたもん。」
海都「(苦笑して)いや、そんなことないけどさ。」
「・・・会社の人、みんな噂してるよ。あのプロジェクトのせいで、自信なくしたんじゃないかって。」
海都「・・・・・そう。」
「あんなのよくある事じゃない、そんなに落ち込むようなことじゃないよ。」
海都「いや落ち込んでるわけじゃないよ、そうじゃない。」
「じゃあなあに?」
海都「ちょっと休んでみたくなっただけ。ほら、有給まだ少し残ってるからさ、それだけだって。」
「そっか。」
海都「そう。」
「じゃあ楽しんでいこうかな、せっかく来たんだし。」
海都「うん。(微笑む)」
そこへ、広海が頃合いを見計らって突然入ってくる。
広海「すーいません、あのこの民宿、セックス禁止なんですけど。」
海都「何言ってんだよ。(広海につかみかかる海都)」
広海「あの、お風呂の準備が出来次第あのお呼びしますんで。」
海都「(無理矢理広海を部屋から押し出しながら)そりゃどうも。」
広海「いいえ。」
もみ合いながら部屋から広海を追い出す海都。
「なんなのあの人?」
海都「え?・・・バイト。」
「変な人・・・。」
海都「同感。」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 階段 
階段を駆け下りる足を止めて振り向き、2階を見てにやりと笑う広海。
□ スナック渚前 
春子がタバコをふかしながら何かを待っている。
春子「おっそいなー。」
そこへ真琴が自転車に乗って近づいてくる。
真琴「ただいまー。」
春子「おかえりー、どうした今日早いね。」
真琴「あー試験前だから。」
春子「あー、そっか。」
そこへクラクションを鳴らして殿村が郵便配達のバイクに乗って現れる。
春子「もう、今日遅いんじゃないの?」
殿村「あ、ごめんね春ちゃん・・・えっと・・・(郵便バッグの中をさがす)・・・あ、あったあった。」
春子「ん?」
殿村「はい。(春子に手紙を渡す)」
春子「何コレ?請求書じゃない。」
殿村「・・・そう。」
手紙を殿村に突き返す春子。
春子「いらない。」
殿村「い、いらないって・・・。」
春子「いらないよ、いらない、あんたにあげる。」
殿村「あんたにあげるって、いや春子ちゃん受け取ってもらわないと困るのよ。」
春子「(殿村の手から手紙を奪い取り)んもーう、つっかえないなー。」
殿村「・・・つかえない・・・。」
春子「はい行った!」
殿村「じゃあ、またね。・・・つかえないなって、公務員だからさあ・・・。(ぶつくさ言いながら立ち去る)」
春子「はいバイバーイ。」
真琴「ご苦労様でーす。」
ため息をつきながら椅子に腰掛ける春子。
真琴「誰からの手紙待ってるんですか?」
春子「ん?」
真琴「男の人?」
春子「そうだよ。」
真琴「えーっ?どんなどんな?」
自転車から離れ春子のとなりに駆け寄る真琴。
春子「どんなって言われてもなー。」
真琴「年は年は?」
春子「年下。」
真琴「へぇ〜。」
春子「かわいいかわいい年下の男の子〜てやつ。春樹君っていうの。」
真琴「春子さんと同じ春?」
春子「うん。そう。」
真琴「(嬉しそうに)ふーん。」
春子「・・・帰んなくていいの?」
真琴「うーん・・・。」
春子「どうした?」
真琴「どうしもしないよ。」
春子「そんなにお母さん、いや?」
真琴「そんなことないよ・・・。そんなことないけど・・・。」
春子「うん、わかった。元気出せ、真琴。それだけが取り柄だろ。」
真琴「それ、だけって何強調してんの!?失礼な。」
にこやかに笑う真琴
春子「そうそうそう、その顔。民宿の娘はね、スマイルだけが命だよ。」
真琴「・・・でも・・・。」
春子「来てるらしいよ、お客。」
真琴「(パッと表情が明るくなり)本当!?」
うなずく春子。笑顔が戻る真琴。
□民宿ダイヤモンドヘッド 
ダイヤモンドヘッドの食堂から飛び出してくる水着姿の桜と富士子。
富士子「桜さん、こっちこっち!」
「ああ、キレイ〜」
にぎやかに声を上げながらドラム缶風呂に入る桜と富士子。デッキチェアから二人を眺める海都。そこへ広海が駆け寄ってくる。
広海「どお〜?ねぇどぉどぉどぉどぉどぉ?」」
富士子「もう極楽って感じ。」
「ほんと、すっごい気持ちいい。」
広海「やっぱり、一応さほら、ここの名物だからさ。」
「他には何があんの?」
広海「他に?ほら、他にはやっぱ海でしょ。ほら海にかなうもんはないでしょ。ねぇ〜。」
突然双眼鏡を取り出して、富士子と桜の胸元に注目する広海。
「あらら?あら?あら桜ちゃんなかなかじゃん。」
「そうですか?」
その様子を見ていた海都、遠くから声をあげる。
海都「(右手を挙げて)ちょっと待った!おい!」
広海「ちょっと待ったってねるとんじゃないんだからさー。」
3人の元にダッシュする海都。
広海「あ速い、速い、速い、速い!」
海都「いいよこっちは俺がやるから、もう!」
広海から双眼鏡を取り上げる桜の風呂に薪をくべようとする海都。
広海「でもほら、お客さんにそんなことさせちゃ困るしさ。」
広海「うるさいな。」
二人が言い争っているところへ、真琴が帰ってきて駆け寄ってくる。
真琴「いらっしゃいませ。」
桜・富士子「こんにちは〜。」
海都「あ、お帰り。」
広海「お帰り真琴!」
真琴「あのね、呼び捨てにされる覚えはありません!」
広海「なんでそうやって僕の時だけ冷たくすんの?」
真琴「(笑って)すんのって、バーベキューやるんでしょ。着替えたら手伝います!」
広海「ヨロピク〜。」
真琴「ハーイ!」
中に戻る真琴。
「誰?」
海都「ああ、ここの子。」
「ふーん。」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 中
真琴「ただいまー。」
勢いよく中に入ってくる真琴。勝の部屋のドアを開ける。
真琴「おじいちゃんお客さん入れたんだ。ってことは、ここ続けるんだよね?じゃあたしここにいてもいいんでしょう?あの人だけじゃ人手不足だし、それにさぁ・・・」
「あいつが勝手に連れてきただけだ。お前は、学校が終わったら、慶子の所に行く。ここは閉める、それは変わらない。」
真琴「おじいちゃん、でもさぁ・・・。」
「真琴・・・・・まあそういう意味では、最後の客かもな。」
真琴「(がんばって笑って)・・・そっか・・・そうだよね・・・じゃあ楽しんでってもらわないと・・・。」

(3)へ続く



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