● 第2話 『私、ここにいたい』 (3)
□ ダイヤモンドヘッド前 浜辺
夕陽が照らすダイヤモンドヘッド前の浜辺。客と従業員総出でバーベキューパーティーが開かれている。
乾杯の音頭をとる広海。
□ スナック渚
同時刻、客のいないスナック渚。風鈴の音が悲しげに響く。
カウンターに座る蓑田。厨房に経つ殿村。二人の目が合う。微笑む殿村。目をそらす蓑田。
蓑田のグラスに酒を注ごうとする殿村。扇子でそれを制止して手酌する蓑田。
□ ダイヤモンドヘッド前 浜辺
バーベキューの串を焼いている広海。そこへ富士子がやってくる。
富士子「広海〜。」
広海「あん?」
富士子「あーん。(食べさせてもらおうとする)」
広海「あーん。(串を富士子の顔につける)」
富士子「あつい〜。」
皿に食べ物をとって桜の元に持ってくる海都。
海都「お待たせ。桜、肉。」
「うん、こっち。」
海都「こっち?」
「うん、ありがと。」
海都「飲み物はビールで大丈夫?」
「うん、大丈夫。」
お盆で何かを運んでいる真琴。
富士子「わざとでしょう?」
広海「わざとじゃないっつーのホントに。あ、チット真琴コレ食ってみろよ。」
みんなの様子をデッキから眺めている勝。楽しそうにしている真琴と目が合う。
バーベキューの串をひっくり返そうとする広海。その手を勝がピシャリと叩く。
広海「あ痛!何ですか?」
「まだ早いよ。」
春子「ホントだ。」
広海が間違う様子を、とても嬉しそうに見ている海都。
広海「なに〜?ずいぶん嬉しそうじゃん。」
海都「いや、そんなことないけど、なに、ボーイスカウトでは習わなかったの?」
広海「あたりまえじゃん。こんなの教わるかよ、なに!」
ムキになって立ち上がる広海。そこへ富士子が口を出してくる。
富士子「ねぇねぇねぇねぇ、いいこと教えちゃおっかー?」
春子「えー何?何々々?」
広海「ナニナニナニナニ?ナニナニ?」
富士子「広海の、はずかしー決まり文句。」
春子「イェーイ!」
広海「おい、どうしてお前は飲むとそうやって。」
春子・真琴「聞きたい聞きたい聞きたい!」
富士子「広海ったらね、エッチの時・・・」
あせって富士子をとめようとする広海。その様子を遠くから眺めているはづき。
広海「そう言えばさ、あの子来なかったね。」
春子「あー、来にくいのかもね。」
広海「え?」
春子「ほら、身体弱い時ってさ、健康な人見ると腹たつじゃない。特にキミみたいなの〜。」
広海「あ、そっか。(心配そうに)かえって良くなかったかな?ほら誘ったりして。」
春子「ふーん、結構繊細なとこあるんだねー。」
広海「あのね、俺は繊細、繊細そのものです、ワカルー?」
春子「あんなこと言ったりすんのに?あ、あ、あははー!」
離れていく春子。駆け寄ってくる富士子。かなり酔っぱらっている。
富士子「広海〜!」
広海「何?」
富士子「ねぇ、ねぇねぇねぇねぇ、ねぇねぇねぇねぇ!」
広海「ナニナニナニ?はいはい。」
富士子「ねぇねぇねぇ。練習どう?」
富士子の言葉に反応する海都。
広海「練習?」
富士子「海にいるっていうのは、そうなんでしょ?もう一回やる気になったんでしょ水泳。あれ、今度のオリンピックってどこだっけ?」
広海「そんなんじゃないって。」
富士子「違うの?私てっきり海にいるって言うからそうなのかと思って!」
広海「(ため息をついて)お前ちょっと酔い過ぎ。」
富士子「えー酔ってないよ〜。」
富士子を無理矢理ダイヤモンドヘッドの方へ引っ張っていく広海。
広海「なにワケわかんないこと言ってんだよ!ほら〜!」」
二人の様子に目をやる海都。ダイヤモンドヘッドのウィンドチャイムが鳴っている。
バーベキューの後片づけが始まる。その様子を眺めている海都と桜。
「いいところだね。」
海都「うん。」
「みんなおもしろい人たちだし。」
海都「・・・うん。」
「でも・・・ここに一生いるわけにはいかないもんね。」
砂浜にうち寄せる波音。
海都「・・・うん・・・(自分に言い聞かせるように)解ってる。」
桜の方に振り向く海都。
海都「あ、何か飲む?」
「うん。」
海都「待ってて。」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 中
麦茶を取りに中へ戻る海都。そこに酔っぱらった富士子が寝ながらせき込んでいる。
海都「あーごめん起こしちゃった?」
富士子「うん、大丈夫大丈夫。」
ビールを飲み続ける富士子。
富士子「だいじょぶだいじょぶ。」
海都「・・・あーそだ、さっきの話なんだけど、水泳の選手だったの彼?」
富士子「もう選手なんてもんじゃなかったの!ホントはオリンピックでメダルだって夢じゃなかったんだから。」
海都「え?」
富士子「水泳自由形。日本ではトップクラスだったんだよ。それがさ、最終選考会の前の晩ケガしちゃって、それでパー!何もかもパー!」
海都「・・・そう・・・。」
富士子「それ以来ずーっとああやって人生休んでんのあいつ。」
海都「・・・・・・。」
□ 民宿ダイヤモンドヘッド前浜辺
くたびれたダイヤモンドヘッドの看板。残り火を前にして「水平線」を奏でる勝。それぞれにくつろぐ広海・春子・海都・桜。
真琴が近づいてくる。突然、ギターの弦が切れる。真琴が静かに泣いていることに気がつく一同。
春子「真琴・・・。」
真琴「・・・私・・・私、ここにいたい・・・。」
一同「・・・・・・」
真琴「ここにいたいよ。・・・ねぇおじいちゃん・・・私ずっと・・・ずっとここにいたい。・・・だってここが好きなんだもん。」
そう言うと建物の方へ駆け出す真琴。
春子「真琴!」
追いかける春子。沈黙する一同。自分の部屋に戻り、ドアを閉めて座り込み、すすり泣く真琴。ドア越しに声をかける春子。
春子「真琴?」
真琴「・・・ごめんなさい。」
春子「謝ることなんかないよ・・・。謝ることなんかない。」
うつむく真琴。
春子「おやすみ。」
静かに泣き続ける真琴。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド 居間
居間に集まっている広海、海都、春子、勝。
広海「なーんだ、そう言うことだったのか。じゃあほら、客がどうとかさ、そういう問題じゃなかったんじゃん。」
「誰がそんなこと言ったよ。お前が勝手にやったことだろ。」
広海「いやまあ・・・あのーそれはそうですけども・・・でー真琴は東京に戻るんですか?」
春子「勝さんはそうさせたいのよね?」
広海「あ、でもほら、帰りたくないって言ってんじゃないっすか。」
「関係ねえだろお前には。これは俺と真琴の問題なんだよ。その方があいつのためなんだ。」
広海「でも、なんでほら、民宿つぶすんですか?」
じっと二人の話を聞いている海都。
「そうでもしなきゃあよ、あいつはこっから出て行かないんだ・・・。はい、お休みよ。」
椅子から立ち上がって部屋に戻る勝。残される3人。
□ 民宿ダイヤモンドヘッド前 海辺
うち寄せる波を眺めながら、たたずんでいる広海と海都
広海「あーあー、結局ここにはいられないのかー。」
海都「ねえ、なんでさ。」
広海「んー?」
海都「いや、何でもっと食い下がらなかったのかなーと思ってさ。ちょっと意外だった。」
広海「(失笑して)しょうがないでしょ、現実ってヤツはさ。なかなか手強いからね・・・。社長みたいにさホラ、ずっと好き勝手に自由にやってきた人間だって、なかなか現実からは逃げられられないんじゃない。」
海都「・・・・・・」
広海「・・・・・・・やっぱ難しいんだよきっと、好きなことだけやって生きていくっていうのは・・・難しいんだよね・・・。」
しみじみと言葉をかみしめる広海。
広海「真琴もかわいそうだよね、ホラ、あんな年でさ、いろんな事背負って、それでもそんなこと感じさせないで偉いよ。」
海都「(しばらくの沈黙のあと)ねぇ。」
広海「ん?」
海都「(広海のとなりに座り直して)どうしてさ・・・・・・どうしてこの場所にそんなこだわるの?」
広海「(失笑して)いや俺ね・・・。」
海都「え?」
声を出して笑う広海。
海都「なに?なんだよ?」
広海「いや俺さ、海で泳いだことないんだよね。」
海都「え?」
広海「正直ちょっと怖いんだー。だってほら、コースもゴールも何もないでしょう。だから泳げないんだよね、海でね。」
海都「・・・・・・」
広海「でも、今年の夏、ここで、海で泳げるようになろうかなと思って・・・そう思ってさ。」
海都「・・・・・・」
広海「ワカる〜?今のは、海って言うのをちょっと、ホラ、人生に例えてみたんだけど。(笑う広海)」
海都「・・・でもすごいんだな、オリンピックなんて。」
広海「ああ行ってない行ってない!オリンピック行ってないよ。」
海都「そうだけどさ・・・でもすごいよ・・・。」
広海「・・・(何かを言いかけた後)すごいよ〜。」

(4)へ続く



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